幹細胞の中でも特に注目を浴びる胚性幹細胞(ES細胞)は、無制限の増殖能力によって莫大な数の細胞を無尽蔵に供給する能力を持つだけでなく、体を作るすべての種類の細胞と組織に分化して作り出す多能性を持っている。従って、ES細胞を未分化な状態で大量に増殖させたのち、目的とする細胞種へと分化させ、必要な機能を果たす分化細胞を集めて、移植治療など多様な用途に活用できる。京都大学再生医科学研究所は国内で唯一ヒトES細胞株の樹立に成功して2003年から全国分配を行っている。創薬研究においても様々な種類のヒト細胞を使用することが不可欠である。新薬開発や安全性試験、毒性試験などの研究材料として必要なヒト組織細胞の入手と供給には大きな制限があるが、ES細胞は大量に増殖させた後に必要とする細胞を作ることができる。さらには、特定の試験目的のために遺伝子改変を行った疾患モデル細胞などを作ることも可能である。ES細胞はなぜ万能細胞と呼ばれるのか。その答えは、無限の増殖能力と、殆どすべての種類の細胞を作り出せる多分化能、これら両方を持つ細胞株だからである。